複雑化する新薬

今回は、宇宙実験に期待を寄せる製薬業界についてお伝えします。
現在製薬業界は、様々な問題に直面していることをご存知でしょうか。
今の製薬業界が抱えている最も大きな問題は、現在作っている薬の特許が切れるという問題です。

薬の特許が切れると、それは安価なジェネリック医薬品となり、製薬会社の収益を大幅に圧迫してしまいます。
薬を飲む患者さん側にとっては、ジェネリック医薬品は嬉しいことばかりと思うかもしれませんが、製薬業界にとっては利益が目減りしてしまう大問題なのです。

特に、新しい薬を製造して利益を得ている新薬メーカーにとっては、ジェネリック医薬品は収益を圧迫する存在です。
また新薬メーカーにとっては、もう一つ頭の痛い問題があります。
それは、新薬の開発過程が年々複雑化していることです。
新薬の開発にゲノム創薬などの次世代の研究手法がおもに使われるようになったことで、従来より複雑なプロセスを経なければ新薬開発は不可能となってしまったうえ、新薬の開発費用もかさむようになってしまいました。

新しい取り組み

現在の製薬業界は、こういった課題を乗り越え、さらなる発展と技術革新を目指すことが急務となっています。
そこで日本の製薬業界は、宇宙で薬を開発する宇宙創薬に乗り出すことにしたのです。
製薬業界は、ある大手の工業メーカーが開発した生物実験用の回収カプセルを使って、ロケットでマウスなどの小動物を宇宙空間に打ち上げ、それを回収するまでの間に宇宙実験を行う計画を立てています。

この生物実験用の回収カプセルは、ロケット内の人工衛星を格納するスペースに搭載されて打ち上げることができるため、低コストで小動物を宇宙空間に打ち上げて生物実験を行うのに最適なのです。

日本の製薬業界は、生物実験用の回収カプセルを使うことによって、微小重力環境下で実験動物にどのような変化が起こるのかということをテーマにした実験を行うことを計画しています。

この実験では、宇宙空間に近い環境の中で実験動物の遺伝子・タンパク質・代謝にどのような変化が起きるのか、という情報を蓄積してデータベース化し、新薬の開発につながる新たな化合物の発見に役立てることを目指すことになっています。

ちなみに、微小重力環境下においては、実験動物のマウスに骨・筋・心循環器・免役・中枢神経系などの老化が早まる、脾臓のインシュリン輸送機能が急速に低下する可能性があるため、糖尿病を発症しやすくなる、といったことが起こるだろうと予測されています。

こういったことから、マウスをロケットで宇宙に打ち上げて実験をしますと、糖尿病や老化に伴って起こる数々の病気のメカニズムが解明できるのではないかと期待されています。
人間の宇宙飛行士でも、長期間宇宙に滞在していますと筋肉の萎縮が起きてしまったり、骨粗しょう症になってしまうため、宇宙で動物実験を行いますと、筋減弱症(サルコペニア)と呼ばれる筋肉の病気がどのようにして起こるのか、というメカニズムが解明できるのではという期待も高まっています。